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第8話 村人Aは助けに向かった

작가: 和泉公也
last update 게시일: 2026-10-31 06:43:48

 カラオケも一段落して、時刻は夜の八時に差し掛かっていた。健全な高校生なら流石に家に帰らなければならない時間だ。そろそろお開きにしよう、と先生が言い出して、ようやく時刻に気がついた。

「えー、それでは、縁も投げ縄ではございますが……」

 個室の中で、前守くんがマイクを手にしてこの場を締めようとしていた。

「ベタなギャグやらなくていいの。肝心なところで締まらないんだから」

「あはは、このやり取りも毎回だよねぇ」

「ま、こんなクラスだけどこれからもよろしくな、姫川さん」

 マイク越しのせいで、普段野太い前守くんの声が余計に強く響き渡っている。

 結局、僕は二曲ぐらいしか歌わなかった。それも、なんとなく知っているレベルの無難なJPOP。一応アニメの主題歌ではあるし、知名度は高い曲だ。ま、僕が歌っている間、みんな大した反応はしなかったんだけどね。それでもいいか、歌うのは嫌いじゃないし。

 そんなこんなで、この珍妙な会が終わろうとしていた。

「それじゃあ、最後に姫川さんから一言ぉ」

 何故かしゃしゃり出てきた宗田さんが、姫川さんにマイクを手渡した。

「え、えっと……今日はありがとうございました。色々とご迷惑をお掛けしますが、今後ともよろしくお願いします」

 姫川さんは困惑した様子で、かなり普通の挨拶をした。

 僕たちは上着を羽織り、鞄を持って外へ出て行った。

「みんなからお金は貰ったから、僕がお会計しておくね」

 率先して夕島くんがカウンターへ向かっていくのを確認すると、僕たちは一足先に表へ出て行った。

 四月とはいえ、夜になれば外はまだ肌寒い。

 僕はかじかんだ手を温めながら、他の皆と一緒に夕島くんが出てくるのを待っていた。

「それで、姫川さん。どうよ?」

 唐突に前守くんが姫川さんに声を掛けた。

「どうって、何が?」

「夕島の奴、いい男だろ?」

「はぁ……まぁ、優しい人、だと思います」

 当然、彼女は困惑気味だ。

 さっきもそうだし、なんなら今日の会自体もそうなんだけどさ、前守くんって本当に姫川さんを困惑しかさせていないよね?

 夕島くんとくっつけたいのも理解できるんだけど、やり方が無理矢理すぎる。

「ううん……失敗だったか? いや、まだチャンスはあるか。でも、夕島の気持ちもアレだしなぁ……あぁ、クソっ! もどかしい!」

「なにブツクサと独り言しゃべってんの」

 寒空の下、僕たちはしばらく待っていた。それにしても夕島くんたちの会計が長いな。そんなに混んでいたようには見えないけど……

 そういえば先ほどから先生の姿も見えない。お花でも摘んでいるのだろうか。

「あっ……」姫川さんが何かを思い出したかのように、「そういえば、薬局で買わなければならないものがあったんでした。すみません、この近くにまだ開いているお店ってありますか?」

「だったらこのすぐ裏のお店なら開いていますよぉ」

「ありがとうございます。すぐに行ってきます」

「あっ、ちょっと! 誰か一緒に行ってあげて! この辺って夜になると危ないから」

「大丈夫ですよ。ご心配なく。それじゃあ、今日はありがとうございました! 楽しそうなクラスで良かったです。また明日からもよろしくお願いします!」

 手を振りながら、姫川さんがそそくさとその場を去ってしまった。

 夕島くんたちと最後の挨拶ぐらい、とは思ったけど、何故か時間が掛かってしまっているし待たせるのも忍びない。女性が一人で薬局に行ったということは、男の僕らにあまり見られたくないものなのだろう。深く詮索するのはデリカシーに反するか。

 ――いや。

 そんなことを言っている場合じゃない!

「すみません、僕もこれで」

 僕も手を振りながら、その場を去ることにした。

「お、おう。そんじゃまた明日!」

「気をつけて帰ってくださぁい」

「じゃあ、また」

 姫川さんのときとは打って変わって淡泊な挨拶。でも、それでいい。

 今は急いで、姫川さんのほうを追いかけないと……

 ドクンッ!

 心拍数が妙に上がった気がした。嫌な予感がする。

 脳裏に、あの玲条という女の姿が過った。

 彼女を一人にさせてはいけない。

 何かがあっては、取り返しの付かないことになる――

「きゃあああああああああああっ!」

 突然、路地裏から悲鳴が響き渡った。

「おい、静かにしろっ!」

「やめてっ! やめて、くださいッ!!」

 嫌がる女性の声。間違いない。

 姫川さんだッ!!

 僕は急いで声のする方向へと走っていった。

「ひめかわさあああああああああああああああんッ!」

 僕は街中に轟くぐらいの大声を挙げた。多分、カラオケより声を発したに違いない。

「誰か、助けてッッッ!」

 路地裏の暗い道。明かりなんて当然ない。

 だけど、差し込む微かな月明かりと街明かりで、彼女の姿はくっきりと見えた。

「姫川さん! 大丈夫……」

 ――なわけない。

 彼女は、三人の男たちに羽交い締めにされていた。服を脱がされたりはしていないが、これから何をされようとしているのか、悪い予感しか浮かばなかった。

「おい、何だてめぇ!」

「村野くん!」

 男たちも僕の存在に気付いた。勿論、敵意剥き出しの眼で。

 絶対、こんなの、ヤバい連中じゃん……

「け、け、け、け、けけけけけけけ、けいさ……」

 ――ダメだ。

 さっきまでの威勢はどこにいったんだ、僕! 声が掠れ掠れになってしまって、もう風の音にかき消されてしまいそうなほどだ。

「なんだ、お前?」

「まさか、姫川の彼氏とかじゃねぇだろうな!?」

 ん――!?

 コイツら、姫川さんの名前を知っている?

 顔見知り、ってことか?

 ――まさか!

「ん? アンタ、さっきの……」

 やっぱり、と僕の予感は的中した。

 もう一人、路地裏に人影があることにようやく気がついた。

「れい、じょう……」

 名前を発してみた。これも掠れ声の集大成程度の音量だったけど。

 少しだけ照らし出されたもう一人の人物の姿に、僕は見覚えがあった。

 さっきカラオケで出会った少女――玲条とかいう、姫川さんの元クラスメイトだ。

「……邪魔が入っちゃったかぁ」

「な、な、な、な……何を、している……」

「いや、べっつにぃ」玲条は悪びれる様子もなく、「帰り道でたまたまこの子を見つけたからさぁ、ちょっと呼び出しだけだけど」

「嘘つけッッッッ!」

 今度は思いっきり叫んでやった。

「……何、アンタ?」

「ぼ、僕は、知っているんだぞ! お前が、お前たちが、何をしたのか……」

「……姫川、喋った?」

 ――あっ。

 しまった!

 脅しのつもりだったのに、逆効果だ。かえって彼女の怒りを刺激してしまったみたいだ。

「姫川さんじゃない! お前らの悪行なんて、もう有名なんだよ!」

 スマホを僕は奴らに向けて、動画を撮影しようとした。こういうときは目には目を、だ。

「ふぅん……それで脅したつもり?」

「ちょ、ちょっとでも姫川さんに手を出してみろ! お前らの行動を録画してやるからな!」

「バッカなの、アンタ」

「えっ……」

 その瞬間――

 ドゴッッ!

 僕の背後から、誰かの気配と共に強烈な頭痛が響いた。

「ぐっっ……が……」

 頭を抱え込みながら、僕はその場に蹲ってしまった。その弾みで、手に持ったスマホを落としてしまう。

 もう一人、仲間がいたのか……

「ふんっ!」

 僕を殴ったであろう男が、馬乗りになって僕の腕を羽交い締めにした。

「そいつ押さえといて。邪魔だから」

「おう!」

 僕はもがこうとするが、動けない。かなりの大柄な体躯の男だろう。力も強い。いや、僕が貧弱すぎるだけか。

「姫川さんに、何をするつもりだ……」

「ん? ああ。折角の金ヅル? だからさぁ、もう一回ぐらい、脅しの材料でも撮影しよっかなぁ、と思って」

 ――やっぱり。

 そういう魂胆だったのは簡単に読めた。

 やはりコイツはとんでもない女だ。

 カラオケボックスにいたのは分かっていたはずなのに――

「……村野くんを、離して」

 姫川さんの涙声が僕の耳に届いた。

「は? アンタ、この期に及んでコイツをかばうわけ? ま、いいけどさぁ」玲条はニッと微笑み、「ちゃんと離してやるから安心しな! アンタのあられもない姿を撮影してからねッ!」

「いやああああああああああああああああッ!」

 ――クソッッッ!

 クソッ! クソッ! クソッ!

 所詮、僕はモブの村人だ。非力で、何もできない。

 姫様を助けることもできない、ダメな村人。

 ――助けて。

 ――助けて、勇者たち。

 僕は抜けていく力と共に、ウチのクラスの勇者たちに、心の底から助けを求めていた。

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